March 2007アーカイブ

浅間山目掛けて自転車を20分ほどおもいっきり漕いだら大きなシネマ・コンプレックスに着く。そして街中ではありえないほどいつも空いているのがありがたい。今日も心配なほど空いている。しかも今日は8つある劇場のなかでも、かなり広めのシネマ1。しかも今日はひとが殺されたりする映画。場内が暗くなってから入ってきた三人組もびっくりしている。うわあ、誰もいないよ。あっ、いた。そして小さな声で、あのひとひとりで怖くないのかなあ、って。怖いよ。

楽しみにしていた『バベル』をやっと観る。イギリスやタイのプレスでの評価が思ったより高くなかったので、期待ハズレかと思いきや、とてもいい映画のように思う。僕にとってのモロッコ、メキシコとアメリカの国境、東京のリンク。それは腹痛をともなう発熱。見ているだけで喉の乾く国境のシーンでは、サンディエゴからメキシコに連れて行ってくれたkojiroの車の助手席であじわった腹痛と高熱の気怠さをからだで思い出す。身識から思い出すタイプの思い出。『バベル』では、問題となる場面は最後にやってくる。感動的なシーンにすてきなチューン。それもこれは、なじみのチューン。『美貌の青空』のストリングとピアノのバージョンではないか。この曲にはたくさんの思い出がある。そして、この曲からまたあたらしいリンクが自分のなかに生まれる。こっちは耳識から思い出すタイプの思い出。ヨーロッパでのツアー中、スペインやイタリアなどのラテン系なひとたちのこの曲への反応がひときわよく、民度が高くよい耳を持つ聴衆に坂本さんはご機嫌だった。もう10年も前のこと。そして当然の如く、メキシコ人のイニャリトゥ監督の映画でつかわれることに。この映画では不必要に音楽が流れないので、この曲はとても印象的。それでも、この映画が受賞したアカデミー作曲賞は残念ながら坂本さんにではなかった。ムダな音楽をつかわず、bibo no aozoraを効果的につかった賞ということで。もちろん、あの方はお怒りのご様子。

アンクリットが息子のウーカウに、僕は世界中いろんなところに行ったことがあると説明している。中国に行ってきたというウーカウも6歳なりにプライドがあるようで、僕に英語でエジプトに行ったことはあるかと聞いてくる。飛行機で上空を飛んだことは何度かあるけれど、残念ながら降り立ったことはないと真面目に答える。するとウーカウは、からだ全体で僕に失望してみせる。それでは、ハロン湾に行ったことがあるかと再度チャンスをくれる。ハノイに行ったときに行ってみようかと迷ったけれど、行かなかったと答える。ウーカウはおばあちゃんと行ったのだと自慢げに声を張る。最後に聞かれたのはウボン・ラーチャーダニー(タイとラオスの国境の街)。いや、とだけ答える。それでは世界中とは言わんな、とウーカウは得意げに僕を見つめて、反省を促すかのように何度もうなずく。

チェンマイからチェンライに戻っているアンクリットを訪ねる。アンクリットに会うなら地元のチェンライが一番。フル回転のアンクリットを見ることができるから。アーティストでありながら、朝5時半から市場で野菜や豚を仕入れ、お父さんの食堂を手伝いながら、息子ウーカウの送り迎えまでする。そしてもちろん作品も作る。今回のニュースといえば、自宅敷地内で竹と木材を扱うアンクリット嫁に秘書ができ、事務所にはエアコンが付いていること。計算器まで大きくなってる。そして、なんと牛も6頭いる。肥料代を払えない農夫から譲り受けたらしい。今年、小学校にあがるウーカウは英語が上手くなっている。キミに謝らないといけないことがある、とウーカウが僕を見上げる。前に会ったときに、大きくなったらパイロットになると言ったけど、やっぱり化学者になることにしたのでよろしくとのこと。自分の表情のなかで一番がっかりした顔を見せてやる。悪いけどオレには関係ないという表情で返される。そして質問攻めにあう。チベット人がくるくる回すマニ車の意味、王様のお母さんがチェンライ郊外の山にこもっていた理由、ライムと酢の酸の違いなど、興味の範囲も広くて困る。

それでもやっぱり人間ドックに行こうと、一年半待ちと言われた病院に電話をして、再来年の予約をお願いする。すると、もっと田舎にできた分院でも人間ドックを始めたと教えてくれる。さっそく電話をしてみると、翌週を提案される。これでこそ病院。電子カルテを導入していて、結果も先生のモニターにでてくる。よろしくないお知らせは、なんとなく自分でも気がついていたウエスト周りと体脂肪。そして良いお知らせがふたつ。馬蹄のようにひとつに繋がっているはずの僕の腎臓。超音波でお腹を診てもらうと、ちゃんと2つある。腎臓が勝手に分離することなんてあるのだろうか。そして、180cmと思っていた身長が7ミリ伸びていた。デジタルで表示されるので正しい気がする。

バンコクのホテルの大きくてとても気持ちのいいベットの上で白湯を飲みながら、ひとりぼ〜っとテレビ画面を見つめる。午前2時35分、NHKワールドで「おかあさんといっしょ」はじまる。こんな時間にこんなテンションの高い番組、誰が観るんやろう。寝る気になれない僕以外。サンパウロのホマの家は夕方か。