本当はレトロな特急自強号で大好きな台南駅に降り立ちたかった。北回帰線を越え、車窓からヤシの木を眺めながら南国に南下していく感じがたまらない。でも今回は時間がなくて、台南にすこしでも長くいたいので、台北の松山空港から飛行機で行くことに。この街中にある伊丹空港のような国内線専用の松山空港から飛び立つのも実は楽しい。天母からタクシーで数百円。コインロッカーにスーツケースを預け、次の便はどこの航空会社かと探して、カウンターに行く。身分証明書にパスポートをだすと、カウンターのお姉さんはたどたどしい日本語で対応してくれる。うれしいものの、逆にわかりづらい。お昼ご飯は食べるなと言われたものの、コーヒー付きのザーサイラーメンを食べてしまう。台南の空港にはガリさんとチンツーが迎えに来てくれている。そう僕らは台南に移り住んだこの二人に会いに来たのだった。お腹減ってるでしょ、となんとも台南らしい風通しのいい店に連れて行ってくれる。チンツーは子供のくせに接待上手。おもむろに立ち上がり、お店の冷蔵庫へ向かい、台湾ビール大瓶をテーブルまで持ってき、慣れた手つきでシュポン!と瓶ビールを開け、客人のグラスにビールを注ぐ小学生。そして食事に手をつける前にガリさんとチンツーが改まって、今日はわざわざわたしたちに会いに来てくれてどうもありがとう、と笑顔で会釈をする。店の前の路上にはみ出したテーブルでこの上ない歓迎をうけ、南国の正午の太陽の光を浴びながら照れ隠しで飲めないビールをちょっと飲む。僕らは南国台南の路上でなんて素晴らしい時間を過ごしているのだろうとたまらなくなる。ガリさんとの話は尽きない。でも日本語のできないチンツーは楽しそうな僕らたちにいらだちを覚え、機嫌をそこねる。でも発っした言葉は、僕は将来絶対に日本語を話す。なんとポジティブな考え。気を取り直したチンツーはガリさんの財布をとり、会計を済ませに立つ。客に払わすことだけは避けたいチンツーのごく板についた行動である。頼りになる小学生の後姿を見つめながら、飲めないビールをもう少しだけ飲む。さて、今度は僕らがサービスする番。でも今日は二人共昼寝をしていないので目がショボショボして正直つらい。世間で言えばまだ働き盛りのフォーティーサムシングのおれら二人、台湾での姿は幼稚園児かご隠居さん。しかし、台南の母息子がこの午後の時間を楽しみにしてくれていたのだ。そして、その二人が何やらもめている。聞いてみると、チンツーが楽しみにしていた野球をするか、ガリさんが楽しみにしていた、彼女がいつもひとり佇むカフェでコーヒーを飲むか、もめていたらしい。僕らはあまりに眠たいので、コーヒーを飲ませて欲しいとチンツーを説得する。これも後でいいプレーをするためと。僕らはおいしいコーヒーで台北にいたときより、明らかにリラックスしているガリさんの話に耳を傾ける。チンツーは足を組んで、スポーツ紙にかぶりつくおっさんのような姿でハリー・ポターを読んでる。日も暮れそうなので、急いで公園に向かう。僕ら3人で代わりばんこに打ったり、投げたり、守ったり。ガリさんはビデオ撮影。この日のクライマックスは、細木さんの早めの直球を不振だったチンツーがきれいにセンター返しをした打席。お母さんの反応を見るためにチンツーは自慢げにガリさんの方に振り向いた。ガリさんは僕らにはお尻を向け、公園を走り回る子犬を細木さんのビデオカメラで撮影していた。さすがにこれには、チンツーに同情。夕食は、もちろん蟹おこわ。なんと書いていいやら、このおいしさ。でも眠たい。家ではタオル片手にチンツーの投球フォームを仕上げる予定だった。チンツーの機関銃コレクションを見終わると、細木さんはベットに倒れこむ。まだ夜8時。僕は日本からの電話を暗い部屋で待つ。小学生でも納得のいかない突然の早すぎる1日の終わりの訪れ。チンツーが何度も「おやすみ」と日本語で言いに来る。何度も何度もやって来る。僕も知らぬうちに意識を失う。

